1/9 占いの威力

正月、飛行機の中で見た雑誌の占いに「申年は今年何をやってもダメだから来年にかけよう」と書いてあった。
占いというものは悩んでいる人の背を押したりポジティブなことを言って鼓舞してくれる存在だと思っていたがどうもそうでもないらしい。
仕事もダメ恋愛もダメとボロクソ言ってはいるのだが、その語り口にはなんとなく「こんなこと言ってごめんね…でも仕事だから…」とでも言いたげな、”ご愁傷様感”が漂っていて余計に不安にさせられる。
 
とはいっても、私は占いを信じない主義だ。
的中率が高いと言われるめざましテレビの占いが「新しい友達ができるかも☆」と告げていた課外授業の日、私は
一緒に登校した近所の女の子と一言も会話することなく帰宅し見事ムーンプリンセス妃弥子の野望を打ち砕いた。
こんな占い屁でもない、そう思っていたのだ。
 
ところが飛行機から降りて父の実家に向かうと、叔父が道を間違えて
ハイビームでも三歩先が見えない暗い山道をぐるぐると彷徨う事になった。
 
実家に帰ってようやく一息つけた、と思いきや部屋に超大型の蛾が出現。
蛾が苦手な私の活動領域はコタツの中に制限された。
 
帰宅してからは企業の面接があったが前日夜中まで「エミネムさんが教えてくれるシリーズ」を
見ていたせいか寝坊し面接もしどろもどろでボロボロだった(これは私の責任)。
 
今日はレンタルCD店の会員費が無料になる日だと思って登録しに行ったら
「お正月セール中ですのでそのサービスはやってません」と一蹴された。
 
占いは当たっていたのかもしれない…
度重なる小さな不幸にどんよりしながらバスを降りようとしたところで気が付いた。
 
小銭がない。千円もない。
 
私の使っている地区のバスでは高額紙幣を使うことが出来ない。
なので支払いは小銭か、suicaを使うか、千円を両替するかの三択になる。
しかし私はあろうことかチャージを忘れて一万円しか財布にない状態でバスに乗ってしまったのだ。
 
運転手の前でしどろもどろになる私。「あのう、一万円しかなくて…そのですね…」
ああ、もし私が早生まれだったら、干支が違っていたらこんな風にはならなかったかもしれない。
涙目でカバンをまさぐっていると、同じバス停で降りる高校生が後ろから話しかけてきた。
 
「あの、僕払っておきますよ」
 
まぎれもない救い主だった。キリストは千葉にいたのか。
21歳にもなって情けない話なのだが、私は見ず知らずの高校生に280円を借りた。
無事にバスから生還し「ありがとうございます!!!ちょっとそこのスーパーでお金崩してくるんで!!!」
と私が言うと高校生は「あ、急いでるんで大丈夫です」と言って去ろうとした
聖人だ。まぎれもない聖人だ。それとも私前世でこの人になんか恩でも売ったんだろうか。
あの時逃がしてもらったカニです、とか言ってきたらどうしよう。
 
なんて懸念はさておき聖人を手ぶらで返すわけにはいかない。
私は彼に財布の中に運良く残っていた図書カード1000円分を進呈した。
現金を金券で返すのはルール違反な気もするが、彼は快く受け取ってくれた。
 
あのとき彼がもし本当に急いでいたならば、戸惑っている私を横目にお金を入れて降車したはずだ。
しかし彼は困っている私に手を差し伸べ、しかも見返りを一切求めなかったのだ。
それに比べて私はどうだろう。実家に現れた蛾は一切自分の手を汚さず父に処分させたし、面接で
急いでいる時はエレベーターで後から人が乗ってこないように「閉」を連打した。
私の不幸を招いてるのは私の干支ではなくて、私自身なのかもしれない。
 
 
颯爽と去っていく高校生。西部劇に出てくるあのコロコロ転がる草が似合いそうな、渋い背中だった。
届かないだろうが、改めてお礼を言いたい。ありがとう。あと、図書券でほんとにごめん。