12/28 サンタの思い出

今年のクリスマスもつつがなく終わり、街からは徐々にクリスマスの面影がなくなって来ている。
近所のレストランの前にあったバルーンのサンタ(風が吹くと痙攣したように震える)や、自意識過剰の一軒家のイルミネーションともしばらくお別れと思うと少し淋しい。

 

街に残るサンタの残党を見るたび思い出すのが幼稚園の頃の出来事である。

 

その頃の私はもちろんサンタの存在を信じており、園で開かれるクリスマス会にも必ずサンタがやってくるものと疑わなかった。
白いひげの、ふくよかなサンタさん。きっと私達にステキなプレゼントをくれるに違いない。

 

そしてやって来たクリスマス会当日、幼稚園の先生は満面の笑みで私達に呼びかけた。
「今日はなんとこの幼稚園に、サンタさんが来てくれました!せーのでよんでみよう!」
ついにきた。私たちは期待に胸を膨らませてその名を呼んだ。
「「「サンタさーん!!」」」

その姿は、幼稚園の送迎バスの運転手にそっくり、というかそのものだった。

一応サンタ服を着てはいるものの、顔がノーガードである。

 

園児たちは完成度の低いサンタに激怒し、「運転手のおいちゃんじゃん!!」「本物のサンタさんは?!」と口々に批難する。
運転手のおいちゃんはそれでもめげず、「おいちゃんサンタだよ~~~」と自分のサンタ性を主張し続けた。「おいちゃん」であることを認めてる時点で負けな気もするが。

 
しかしオーディエンスはなかなか静まらない。しびれを切らしたのか、おいちゃんは行動に出た。

「じゃあ〜おいちゃんがサンタだという証拠に〜超能力を見せてやるッ」

 

サンタに超能力なんてあったか?という疑問が浮かび上がるだろうが誰もツッコむことはできなかった。

子供だからだ。

おいちゃんは袋の中からいそいそとスケッチブックを取り出し、開く。そのページにはスプーンの絵が描いてあった。

 

「この絵のスプーンが、曲がる!!!」

 
あからさまに嫌な予感が走った。なんで実物のスプーンじゃないんだ。
そもそも、プレゼントを瞬時に出すとか、サンタが持っているとしたらそういった能力じゃないのか?
五才の頃の私は流石にそこまでの考えには達していなかったかもしれないが、これだけは
はっきりと理解していたと思う。
このオヤジ、完全に私たちをナメている
 

 

完全アウェーの空気の中、おいちゃんは子供たちに呼びかけた。

「おいちゃんが3数える間目をつむってろよ〜〜〜3、2、1、はい!!!!!」

 

「ほら曲がった!!!」

 

目をつぶっている間、ページをめくる音が聞こえたのは言うまでもない。

 

奇術とも言い難いレベルのそれに、どういう反応を返していいのかわからなかったがなんとなく

先生方の圧力を感じた私は「すごい!ユリ・ゲラーだ」とおいちゃんを褒め称えた。

みんなももちろん、おいちゃんに歓声と拍手をおくった。

あのなかのどれだけの人数がトリックに気づいていたかはわからないが

「せっかく来てくれたおいちゃん(サンタ)を悲しませてはいけない」という気持ちは共通していた気がする。

 

あれから10数年の月日が経つが、私はあの時の事を今でもちゃんと覚えている。
あの日、園児たちの奇跡を信じる心にはちょっとだけヒビが入った。

でもその代わりに、おいちゃんは「相手を思いやる心」をプレゼントしてくれたのかもしれない。

 

流石に、曲がったスプーン位は用意しておいても良かった気がするけど。