12/6 新しい手帳

手帳を新調してしばらく経つ。11月まではキャラクターものの手帳を使っていた。
罫線や枠を無視してネコが微笑んでいたり女の子がウインクしているイラストが入っていたた
予定が無いときでも予定があるように見えて気に入っていた。
しかし年の後半就職関係の諸々やバイトのシフトを書き入れるようになってからはファンシー
な図柄と現実とのギャップが酷くなり、ネコは私の無能さをあざけ笑っているように見えたし、女の子の
ウインクはクリスマスにバイトを入れるブスへの絶対的な勝利宣言に見えた。
そういうこともあって来年のものはシンプルな、黒色の手帳にした。
サメの皮のようなざらざらとした表紙、黄色と紺色の紐しおり、自分で選んでおいてなんだが、かっこいい。
手帳を変えただけでこうも気分が高揚するとは。休憩なし五時間のバイトの予定も、心なしか
チカチカして見える。
授業の発表の打ち合わせでも、手帳を出すとき少し誇らしい気持ちが沸き上がった。
隣の後輩が使っているのは学校支給の手帳。
学校のやつ?使いやすいけど、やっぱり自分の持たなきゃねぇ。
ここぞとばかりに、心の中でドヤ顔をキメる(もちろん本人に言えるわけない)。
しかしちらりと見た彼女の予定表には、驚くべき言葉が刻まれていた。
 
「 ディズニー貸し切り! 」
 
肝が冷えた。天下の夢と魔法の王国を、この繁忙期に、貸し切り。そんなことがあってたまるか。
手から石油が湧いたか、学園を牛耳る御曹司四人グループでもないとそんなことできやしないはずだ。
こいつの彼氏はマツジュンか?小栗旬か?それとも松田弟か?(あと一人は忘れた)
しかし彼女が嘘の予定を手帳に書くような、寂しい女には到底見えない。
やっぱり本当なのか。うう、私の12月の楽しい予定なんて、海外俳優とのツーショット撮影会ぐらいだ。
私が金を払って幸せを受け取っている間に、美人は無労働で最高峰の幸せを満喫しているのか。
学校の手帳が、これほどまでに輝きを帯びている瞬間はなかった。
 
悶々としながら調べてみると、ディズニーランドを貸し切りに出来るイベントが抽選であったりするらしく
二人きりで利用、なんて夢のようなことは出来ないらしい。そりゃそうだろうな。
恐らく彼女はそういったイベントに当選した幸運な女の子で、別に憎むべき勝ち組というわけでも
ないようだ。まあ彼氏と行くのかもしれないけれど。
 
「貸し切り」の言葉の圧倒的なセレブ感にあてられてしばらく自分の予定が色あせて見えていたが
事実を知って少し色が戻ってきた。
6000円払ってたって、いいじゃないか。好きな俳優に会えるんだ。
私自身にとっては、ディズニーランドより幸せかもしれないぞ。
これから一年間リア充を憎らしく思ったり、他人を羨ましく思ったり、いろいろなことがあるかもしれない。
それでもわたしはわたしにとっての楽しい出来事を、手帳にしっかり書き留めていこうと強く決心した。
 
改めて開いた手帳のフリースペースには、中学生の腋毛みたいな線が何本も入っていた。